視野広げて将来への糧に
―長崎西高トップの世界に触れる
- バスケットボール女子で、日本チームが銀メダルを獲得した東京五輪から3年。2024年パリ五輪イヤーの幕開けとなった1月13、14日の2日間、「Wリーグ SUPERGAMES~To the World~」(日本バスケットボール協会、バスケットボール女子日本リーグ主催)が群馬県高崎市の高崎アリーナで開催されました。
今年のメインイベントはWリーグの2世代対抗戦。リーグを支える26歳以上で編成した「W LEAGUE UNITED O26」と、パリ五輪後の2028年ロサンゼルス五輪も見据える25歳以下で編成した「W LEAGUE UNITED U25」の対戦が組まれました。さらに、2月のパリ五輪世界最終予選で出場権を勝ち取った日本代表チームの紅白戦も特別開催され、多くのバスケファンが会場に集まりました。
このイベントに特別協賛した当財団は、子どもたちが夢を持ってチャレンジする心を育む活動を続けています。「長崎県の高校生がトップの世界に触れ、もっと視野を広げて自分の将来を考える糧になれば」と、今回は2023年のインターハイに出場した長崎西高女子バスケットボール部を招待。イベント見学に加え、Wリーグ選抜チームや対戦チャンスが少ない新潟県の高校とのエキシビションゲーム、元日本代表選手によるクリニックなど、新たな経験を積む機会を提供しました。
―何のための練習か意識を
14日のメインイベントを前に、O26チームとU25チームの公開練習や、Wリーグのファン感謝祭が行われた13日。長崎西高はまず、元日本代表選手によるクリニックに臨みました。講師を務めたのは、元デンソーアイリスのアシスタントコーチで現在はBリーグ三遠ネオフェニックスアカデミー本部長の小畑亜章子さん。そして、東京五輪の銀メダルメンバーで、現在はBリーグアルバルク東京のアカデミーテクニカルアドバイザーを務める三好南穂さんの2人です。小畑さんと三好さんは2日間、招聘アドバイザーとして長崎西高に帯同しました。
クリニックは、レイアップシュートドリルに始まり、オフェンス・ディフェンスのコンタクト練習やビッグマンディフェンスに重点を置いたプログラムで進められました。指導中に小畑さんと三好さんが強調したのは「何のためにこの練習をしているのかしっかり意識して」「常にゲームシチュエーションで」という言葉。生徒たちも途中で活発に質問しながら2人の指導を吸収していました。
今季の長崎西高は、小柄でも「粘り強いディフェンスからの機動力を生かしたオフェンス」を武器に全国で戦えるチームを目指しています。身長155cmでポイントガードを務める1年生の今井空那選手は「ゴール下で相手とのコンタクトに勝てばシュートを決められたり、小さくてもできることはたくさんあると教わりました」、2年生の溝口瑚安選手も「苦手なオフェンスのコンタクトをはじめ、普段から練習しているメニューの中でも、意識しないといけないところが再認識できました」と新たな発見ができたようでした。
―憧れの選手たちに挑戦!
クリニックの後は、いよいよWリーグプレーヤーたちとの交流の時間を迎えました。東京五輪銀メダルメンバーの長岡萌映子選手(ENEOS)、宮澤夕貴選手(富士通)はじめ、昨夏に長崎西高でクリニックを行った安間志織選手、梅沢カディシャ樹奈選手、宮下希保選手(いずれもトヨタ自動車)、また高校卒業後プロ加入1年目にしてリーグ2023-2024年シーズンのリバウンド部門トップのイゾジェ ウチェ選手(シャンソン化粧品)ら日本女子バスケ界トップクラスで活躍する41名のプレーヤーが「Wリーグ選抜」として参加しています。
高校生たちは憧れの選手たちの胸を借り、10分ハーフのエキシビションゲームに挑みました。「Wリーグ選抜」が貫禄のプレーでリードを広げる中、長崎西高も徐々に緊張がほぐれて攻守に積極的なプレーを披露。10-28で入った後半から追い上げて、最後は31-43で夢のゲームを終えました。
ドライブで果敢に攻めた#5江藤実南選手(2年)は「プロの方々は、当たってもこっちが跳ね返されるようなコンタクトの強さがありました。これからは、ドライブに行ったときも怖がらずに押し負けない強さを身につけ、シュート精度も上げてチームに貢献したいです」、前半に3点シュートを決めた#7北野里歩選手(2年)は「こんなに大きな舞台でプレーしたのが初めてですごく緊張しましたが、スリーを決めることができて自信になりました。今後、全国大会に出場できたら、この経験が生きてくると思います」と、多くの収穫があったようでした。
―強みを生かし準備重ねて
- 体を使って学んだ後は、クリニックの講師を務めた小畑さんと三好さんとの懇談会で、考え方やメンタル面のレベルアップにもフォーカス。長崎西高メンバーの質問に、2人が自身の体験談も交えながら丁寧に回答しました。
『モチベーションの保ち方』の質問に対して、長崎西高と同じ公立高校出身の小畑さんは、高校時代にインターハイ優勝を成し遂げた経験を語りました。「成功体験を積み重ねて自信にしていくため、小さくてもいいから目標を持ってほしいです。生活面から深く突き詰めて、たくさん考えながらやり続けることがモチベーションにつながっていくと思います」
三好さんは競争の激しいトップの世界で戦っていた現役時代を「9割は苦しい。1割の勝ったりする楽しさがあってやれていた」と振り返り、「苦しくても頑張れたのは、目標をかなえたかったから。そのモチベーションを保つためにオンとオフをはっきり分けて、バスケの時はバスケに集中して、休みに待っている楽しいことのために頑張る!という気持ちでやっていました」と当時の思いを明かしました。
春から大学でプレーする3年生からの『レベルの高い環境で、どんな気持ちで挑戦していたか』という質問には、小畑さんが「これだけは誰にも負けない!という強みをつくるのは生き残るために必要。ただ、大学で何を求められているか、何ができたらチームを勝たせられて、自分も評価してもらえるかを考えること」とアドバイスしました。
三好さんは「私も、自分の強みを理解して、それを生かすこと。準備をしっかりすること。これが大事だと思います」と強調。「シュートを強みとしていた私の場合、大事にしていたのは試合で無心で打てること。結果が出るのは絶対に準備しているとき。準備しない限り結果は出ないと思っているから、練習でそれだけ多くのシュートを打ってきたし、それだけやったっていう自信をつけて試合に臨んでいました」
『シュートを強みにしたい。限られた時間の中で一人で練習する方法は』という質問には、シューターの三好さん、ガードとしてゲームメークやパスを強みにしてきた小畑さんともに「シュート1本、パス1本を適当に済ませないこと」と口をそろえました。三好さんは「限られた練習時間の中で120%やり切るのが大事。その中で、自分のシュートの感覚をつかむ。覚える。質にこだわって、機械のように同じシュートを打てるように繰り返す」、小畑さんも「練習もトレーニングも全部がゲームシチュエーションになるようにする。例えばシュート練習なら、入れる本数が目的じゃなくて、常に試合でチームの得点にするために練習すること。時間がない中でやれることを見つけてみよう」と呼びかけました。
1年生の今井空那選手は「試合で自分の力が発揮できなくて落ち込むのも準備不足、失敗を繰り返すのもそう、全ては準備という言葉に繋がっていて何をするにも絶対に欠かせない。それはプロ選手でも同じなのだと理解しました。これからは準備を積み重ねることを怠らず、自分に自信を持った状態でコートに立てるようにしたいと思います」と心機一転。
3年生の石田京弥選手は「三好さんが仰っていた『多くの選択の中で自分がそれで良かったと思えるように』という言葉がとても印象に残っています。これまでも『本当に良かったのか』と振り返ってしまうような選択をした経験がありますが、『自分が選択したならそれを自分の手で良かったと思えるものに出来ればいいんだ』という考え方に至ることができました」とメダリストの言葉に感銘を受けた様子でした。
- 第一線で活躍してきた人には、それを可能にしただけの理由や覚悟があり、2人の言葉やアドバイスの一つ一つが、高校生の心に深く響いた様子でした。懇談会後、三好さんが東京五輪の銀メダルを披露するサプライズが。生徒たちは興奮しながらその感触を味わい、今後への活力に変えていました。
体と心に多くの学びや感動を刻んだ『Day1』。さらなる収穫が期待されるイベント本番の『Day2』に続く。