- 新元号の令和元年がスタートした2019年5月1日から2日間、「TREASURE'19 オール九州ジュニアバスケットキャンプ」がシーハットおおむら(長崎県大村市)で開催された。九州各県を代表して男女各3名、長崎県は男女各12名のU15世代の選手を総勢66名招待し、それぞれの宝探しがはじまった。
- メインコーチに元女子日本代表キャプテンの大神雄子氏を迎え、オリンピアンや元トップリーグ選手、さらにNBAや日本代表の専門スタッフまで様々な経歴を持つコーチ陣が集結。「チャレンジ」をキーワードに失敗を恐れず、積極的に新しいことにトライさせていく。
5人で戦うチームスポーツのバスケにおいて、それぞれが連動してパスをつなぎながらノーマークを作ってゴールを狙う「モーションオフェンス」の習得をこのキャンプのベースに据えた。その目的達成につなげるためのシュートやドリブル、2on2などのスキルを分解し、それぞれのコーチが教えるステーションドリルからスタート。NBAでトレーナーとして活躍した中山佑介コーチと山口"Dice"大輔コーチはバスケに必要な体の動かし方を指導する機会を設けたのも、このキャンプのユニークな点である。

- 中山コーチはNBA選手でも、このキャンプに参加した選手に対しても「アプローチは同じ」と言い切る。
「この世代でもバスケットの技術はすごく高く、コート上では複雑な動きもできています。しかし、単純な動作をさせてみるとできないことがありました。できないからダメではなく、基本的な部分での伸びしろがあることに気がつくことができたと思います。自分が予測できる動きに関しては良いですが、予測できないときに基本的な動作反応ができなければ大きなケガにつながります。また、そこを改善できれば、今後のスキルの伸び方にも差がついてきます」
- 両手で打つことがほとんどである女子に対し、世界基準のワンハンドシュートをチャレンジさせるメニューもあった。150cmのルンゲ春香コーチは海外に挑戦することを視野に入れ、ワンハンドシュートに変えたことで「プレーの幅が倍に広がった」という実体験は選手たちの心に響く。
「以前からどうやって打てば届くのか、どうすれば入るのかと迷っていました。このキャンプでワンハンドシュートを習ったことで、最後のゲームでは決めることができました」ときっかけをつかんだ木下絢音選手は女子MVPに選ばれる活躍を見せた。 - 「みんなが言われてやるのではなく自分から考えて挑戦して、自分なりの結果をそれぞれ出したと思う。その姿を指導者としてとても尊敬します。自分から挑戦して、失敗して、その繰り返しで今日よりも来年はさらに成長でき、そうやって人間としても成長していきます。」というルンゲコーチの言葉は全ての若者に贈りたい。

- 選手それぞれのチャレンジに対し、「はじめて会う人たちの前で声を出し、先頭に立ってプレーするのは勇気がいることです。それを率先して行っていた選手が多くおり、それがうれしかったです」と永田睦子コーチ。末広朋也コーチも「この世代から良い習慣を身につけることで、自ら成長するきっかけ作りを早めに準備できます。未来につながる要素がいっぱい詰まっているキャンプでした」と可能性を感じていた。
もちろん修正すべき点もしっかり見ている。「みんなバスケはすごくうまいですし、能力が高い人も多かったですが、自分を表現することが下手な人が多かったです。もっと自分を出して欲しい。自分の良いところや好きなところを見せて欲しい。それで良いから、楽しいと思うことをもっともっと表現していけるようになってください。」とは山口"Dice"大輔コーチからのアドバイスだ。
- 「一瞬一瞬で成長するのがこの世代です。そこを見逃さないように意識し、実際に選手たちは成長してくれました」と大神コーチも目を細めます。選手たちのがんばりに対し、「我々コーチこそ学び続けなければならないですし、今回参加された九州の先生たちも一緒に学んでいきましょう」と今後も可能性を広げていくためにも、ともに成長することの大切さを訴えていた。
- たった2日間で劇的な変化が得られるわけではない。短期間ではコーチが教えられる内容も限られてしまう。ゆえに、「このキャンプで学んだことを継続し、みんなの未来をもっと高くしていって欲しいです。大事なのは成長し続けること。努力した選手には必ず成長という結果がついてきます」と志村雄彦コーチは言う。中川聴乃コーチは「今後もここで習ったことを実践し、積極的にチャレンジして欲しいです。また、どんなことでも良いので目標を持ち、それに向かって一生懸命取り組んでいくことでここにいるコーチ陣や渡邊雄太選手のような大きな目標につながっていくと思います。小さな目標から積み重ねて、大きな夢や目標に向かってこれからもがんばってください」と期待を込めた。
最優秀選手 上野幸太(熊本県)・木下絢音選手(長崎県)
スキルズチャレンジチャンピオン 片山海王(長崎県)- 男子MVPの上野幸太選手はコーチ陣からのメッセージをしっかりと受け止め、「所属チームは全中(全国中学校バスケットボール大会)出場の目標があります。自分から率先して声を出したり、全力でプレーするところを見せて、所属チームの仲間たちにも広めていきたいです」と誓った。
- キャンプ中は指導者や父兄などへ向け、NBAを経験する2人のトレーナーによるセミナーも開催され、連日100人を超える大盛況であった。中山コーチがテーマにした「熱中症予防の知識と実践」は生死に関わる問題ゆえに、厳しい口調で伝える場面もあった。それに呼応するように父兄の方から質問が飛び、危機感を受け止めていた。山口コーチは2日間にわたり、「ケガ予防とパフォーマンス向上につなげるための動作改善について」座学と実践でレクチャーし、コート外でも宝物を与える機会となった。
- キャンプ初日途中からの参加となった広島ドラゴンフライズの尺野将太コーチ、実は視察のために会場へ来ていたところを大神コーチの要請を受けて急遽スタンド席からコートに降り立ちステーションの1画を担うことになったそうだが、ハプニングといえど真剣に子どもたちに向き合ったコーチングを展開。「大事なのは明日からまたどれだけ継続していけるかどうか。チームに戻ればトップ選手だと思うが、みんなが練習を今まで以上に一生懸命やることや新しいことに挑戦する姿勢は他の仲間たちに伝わり、チーム全体のレベルアップにつながります。」コーチ陣の熱意の渦はいずれ参加した選手のみに留まらない拡がりを見せるだろう。
- 長崎の地で、世界基準のバスケットボールを体験させたい──そんな夢を掲げながらも着地点が見えないままスタートしたのがTREASURE'19である。
地元長崎県出身の永田コーチと中川コーチに声をかけ、大神コーチがこのプロジェクトに賛同していただいたことで大きく前進する。パズルのピースがはまっていくように、バラエティに富んだコーチが集まってくれた。最後の1ピースは日本人2人目のNBAのコートに立った渡邊雄太選手の登場である。目の前に現れたNBA選手に対し、子どもたちの目は輝きを増し、見学に訪れた観客席からはどよめきが起きた。
- 「未来のスターたちと触れ合う機会があれば良いと思っていました。今回このような機会をいただき本当に感謝しています。中学生たちが元気で、心からバスケットを楽しんでいる姿を見て、自分も初心に返ることができ、本当に良い経験になりました」と渡邊選手自身も少なからず宝を持ち帰ることができたようだ。
- 「スキルのレベルはすごく高いと感じましたし、自分の中学生の頃とは比べものにならないくらい上手いと正直思いました。しかしこれに満足せず、常に高いところを目標にして練習していけば、この先は絶対にもっと良い選手になれます。僕はそれを手助けする一人として、今後もがんばっていきたいです」
表彰者へ贈呈したウェア
渡邊選手が着用したものと同一デザインでコーチ全員のサイン入り- 短い時間だったが参加選手と一緒にバスケをし、3Pシュートやダンクを披露してくれた。「テレビの中の存在なので会えるとは思っていませんでしたし、一生に一度のことだと思うのでうれしかったです」と歓喜にあふれる西田真希選手(長崎県)。「フレンドリーに話しかけていただき、さらにハイタッチもできました」という鬼塚花音選手(長崎県)にとっても貴重な機会になった。
最後に渡邊選手は、「夢を叶えるためには、夢を持ち続けることが大切です」と子どもたちにメッセージを送った。その言葉は、このキャンプを実現するための過程そのものでもある。様々な形でこのキャンプに参加した方々にとって、大きな『宝』を見つけることができた2日間となったはずだ。
- *尺野将太(広島ドラゴンズフライズ ヘッドコーチ、元女子日本代表テクニカルスタッフ/横浜ビー・コルセアーズ ヘッドコーチ)
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