「なにかを作りたいという思いをいつも持っていた子供でした」
宇宙航空研究開発機構(JAXA)で次世代大型ロケット「H3」や宇宙船の開発に携わっている藤本圭一郎(ふじもと・けいいちろう)は、少年時代をそう振り返る。
「家にある割り箸や輪ゴムで鉄砲を作ったり、たくさんのロケット花火を同時に打上げる仕組みも成功させましたね。庭に秘密基地を築き上げて空想の敵と戦い、果ては冒険と称して自作のイカダで海に漕ぎ出したら日本海流に乗って外洋に流されそうになったり...。とにかく、いろんなものに自分なりの工夫を加えて新しい何かを作り出したい気持ちは強かったですね。」
好奇心旺盛な少年は「ものを作り上げる楽しさ」を体感しながら、その過程で独創性や発想力を養っていった。
「まず模倣から入りそこから高めていく。基本は昔と同じなのかもしれません。」
その姿勢は宇宙開発エンジニアとなった今も変わらない。
「目標を達成してしまうと物足りなくなるので、より難しいゴールの設定と挑戦とを繰り返していました。」
完成したもので遊ぶのが楽しいのではなく、いいものを作り上げていく過程が楽しいのだ。
学校の勉強も楽しかったが、心中では複雑な思いも抱えていたという。
「親から勉強するように叱られた記憶はありません。ただ考えるのが好きで、周囲のものに対して理屈っぽく、常に思い巡らせていました。学校の勉強に対しては何のために学んでいるんだろうというモヤモヤがいつもつきまとっていたのですが、教えてくれる人は誰もいませんでした。コツコツと積み重ねて成績が上がることが嬉しかった。が、あの頃は人より高い成績をとりたいだけだったのかもしれません。」
やがてものづくりの楽しさを通して自分自身へと課してきたミッションが、学ぶという行為への動機を導きだす。
「目的は自分で決めてもいい。これをしたい、これができたらいいなという目標が定まると、まずやる気がでる。楽しいと思うことは、誰になんと言われようがやり続けて欲しい。小さい頃から好きなことを突き詰めていくことで、これを学べばこういうものづくりに繋がるというのが明確にわかったので、勉強が苦ではなく楽しかった。」
楽しい目標へと至る道程は楽しいに決まっている。