「Story」vol.17 花尾恭輔

駒澤大学 経済学部商学科 3年 陸上競技部
2020年度奨学生
 長崎県の鎮西学院高から駒澤大に進み、3年がたとうとしている。陸上競技部の花尾恭輔は1年時から駅伝メンバーに名を連ね、「出雲」「全日本」「箱根」の大学三大駅伝で計5度の優勝に貢献してきた。
「まだ発展途上ですが、気持ちも走りもすべてにおいて、思った以上に成長できていると思います」
 その成長のポイントに挙げているのは「出会い」。チームの仲間、大八木弘明監督ら指導陣との巡り合いへの感謝を忘れず、日々、自らを磨き続けている。

経験が自信と財産に

 大村市出身。市立桜が原中で陸上を始め、3年時の全国中学駅伝6区(3km)で区間賞に輝いた。高校時代は5000mでインターハイ8位、国体も7位入賞。県高校駅伝は最長区間の1区(10km)で3年連続区間賞を獲得した。
 中高生のころから、ロードや長い距離への適性に定評があった。高校卒業後の進路は実業団と迷ったが、ずっと誘いの声をかけてくれた駒澤大の藤田敦史コーチや大八木監督の下で、より高みを目指そうと進学を決意した。
 部員は全国から集まった選りすぐりのランナーたち。全員が部専用の寮に入って学生生活を送る。長崎から関東に出てきた当初、周りは知らない人ばかりだった。「不安もあった」が、同じ志を持った仲間たちと競い、励まし合いながら練習に取り組むうちに、その不安は充実感へと変わっていった。
SNSで話題に上ると「かわいい」の枕詞が付きがち
 早い段階から走りの安定感を認められ、1年時から駅伝メンバー入り。10月の出雲全日本大学選抜駅伝はコロナ禍の影響で中止となったが、続く11月の全日本大学駅伝を皮切りに、欠かさずチームのたすきをつないできた。
 厳しいメンバー争いの中で「起用してもらった期待に応えたい」と自らの責任を果たし、チームで勝つ喜びを味わう。そんな最高の経験を重ねて、自信もついた。
「注目度の高い全国区の大会で何回も優勝するっていう経験は、生きている中であまりないはず。それを味わえているのは、自分の財産になっています」
©Shunsuke Mizukami

学び多かった3年時

 大学で走る距離は、正月の東京箱根間往復大学駅伝の場合、最短区間でも20kmある。高校と比べて必然的に練習量が増え、質も上がった。入学後、故障や貧血で練習が継続できない期間もあったが、2シーズンを経て適応。「自分の体も分かってきて、練習の時期、量、質がどう結果に結び付くのか、ノウハウが蓄積されてきました」
 その言葉通りに、3年時は充実のシーズンを送っていた。大学で初めて故障や貧血がなく練習が積め、いい状態で秋に入った。まずは出雲で優勝メンバーとなり、全日本は2年時に続いてアンカーの8区(19.7km)を任された。ここで、自身大学初の区間賞を獲得し、2年連続で優勝のゴールテープも切った。
精悍な走りを見せるが語り口はとてもソフト
 チームが掲げる「大学駅伝3冠」に向けて、残すは箱根のみ。この大事な場面で、順調だった歯車が狂った。本番直前の体調不良で状態が戻らず、箱根を欠場。内心は悔しくて仕方なかったが「落ち込んでいる暇はない」と切り替えた。チームの士気を下げないよう、いつも通り明るく振る舞い、サポートに徹した。
 結果は往路、復路、総合の完全優勝で、駒澤大初の大学駅伝3冠を達成。自らも歓喜の輪の中にいたものの「やっぱり走って勝ちたかったので…、何ともいえない感じでした」
 ただ、得たものも大きかった。「もうこんな思いをしたくない」という今後へのモチベーションが上がった。たくさんの人が自分のことのように欠場を悔しがってくれて、改めて応援してもらっているのを感じた。裏方に回る選手が、どんな気持ちでメンバーを支えているのかも知った。
「学びの多い1年でした」
第101回関東インカレ男子ハーフマラソン ©駒大スポーツ

あと1年さらに飛躍

 いよいよ、大学ラストイヤーを迎える。入学時から、同期全員でこの年を意識してきた。
「4年生の時、箱根の100回大会で優勝しよう」
 2年連続の大学駅伝3冠は、まだどこも達成できていない。しかも、箱根の大きな節目で新たな歴史を刻める可能性があるのは、駒澤大だけだ。
 「来季も勝てるチーム力はある」と確信している。その中で自身の果たすべき役割とは。
 「これまでは、無難に走って貢献してきたけれど、4年生として強さを出せるように、練習も工夫していきたいです」
 個人としては「将来の主戦場に」と位置づけてきたマラソン挑戦も視野に入れている。次の箱根後を見据えて準備していく予定で「どれくらいやれるか楽しみです」と自分自身への期待ものぞかせる。
©Shunsuke Mizukami

長崎で教わった姿勢

 卒業後は実業団に進む予定。桜が原中で一緒に汗を流した、1学年先輩で2021年東京五輪女子5000m、1万m日本代表の廣中璃梨佳(日本郵政グループ、松園尚己記念財団ジュニアアスリート強化支援選手OG)、同学年で2022年全日本実業団ハーフマラソン男子優勝の林田洋翔(三菱重工、同OB)と同じカテゴリーとなる。
 その廣中は尊敬する存在。「中学時代に一緒に練習していた人が世界で戦う姿を見ると、自分も頑張らないとと思います」。林田は互いに刺激を受け合う間柄。「学生最後(2024年)の都道府県対抗男子駅伝は、長崎チームで一緒に走って地元を盛り上げたいです」
 ランナーとしての原点は、この2人とともに走り始めた中学時代にある。当時のコーチ、定方次男さんから大事にするよう教わった「謙虚さ」は、長崎を離れても失っていない。常に自分を素直に受け止め、周りから学び、レベルアップしていく。ここまで自らに携わってくれた人たちのおかげで、21歳の今がある。
高校最後の長崎県下一周駅伝では林田選手と襷を繋いだ ©長崎新聞社
「大八木監督も『我逢人』(がほうじん=人との出会いの尊さを表した禅語)という言葉を大切にされています。自分も本当にそう思っています」
 これから広がるステージで、今度はどんな人たちが待っているのか。その出会いが、花尾をさらに大きく、強くする。
少ない休日はプリンを食べに行くスイーツ男子な一面も

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