2015年に神戸へ移籍した渡邉は、移籍初年度、そして昨季と2年続けてリーグ戦で二桁ゴールを記録して、ゴールゲッターぶりを発揮。しかし、今季は開幕から10試合続けてノーゴールと点が取れずに苦しんでいた。調子が悪い訳ではなく、たまたま結果が出ないだけだが、ストライカーの評価はゴール数の大小が基準となってしまいがちだ。
「周りは内容ではなく結果を重視して、数字を見て判断する。選手側から見れば、結果が大事なのは分かるし、数字の大切さも理解できますが、サッカーは得点以外のプレーでチームに貢献することも多く、いろんな要素を加味して欲しいとも思い、もどかしい部分もあります。自分は結果と内容の両方で評価されるように意識しながらプレーしています」
サッカーは個人競技ではなく、チームスポーツなので、最も大切のはチームの勝利。しかし、プロ選手である以上は個人のパフォーマンスと数字も要求され、その辺りのバランスは難しい。いくらゴールを量産しても、チームの勝利に繋がるプレーができなければ、良い選手との評価は得られない。
「自分が点を取ってチームも勝つのがベストで、それ以上に嬉しいことはないです。若いときはとにかく自分が点を取れば良いと思っていましたけど、今はキャプテンという立場もあり、チームのことをまず考えてプレーするようになりましたし、チームの勝利を最優先にプレーするようになりました。正直なところ、自分のパフォーマンスが良かったり、点を取れば、自分の中である程度は満足しているところはありますが、チームが勝たないと手放しで喜べません。神戸に来て、(プロチームの)キャプテンをやるようになり、周りを見渡せるようになったことで、自分だけ良ければという考えが変わりました」
ストライカーは強い自我を持たないと相手の厳しいマークを掻い潜って、チームメートから託されたボールをゴールに叩き込めない。フィールド内外での強い信頼関係が確立されているからこそ、チームメートは渡邉にボールを繋ごうと必死になってプレーする。幼少時代からゴールに対して天性の才能を誇っていた渡邉はピッチに出ればエゴイスティックにゴールを目指してプレーするが、普段は仲間への気配りを忘れない良きチームメートでもあるのだ。古豪の国見高校、早稲田大学、そしてプロと全てのレベルでキャプテンに任命されてきたという事実が、彼の人間性を物語っている。
「もともと自分がキャプテンの資質を持っているとは思いませんし、ガンガン声を出してチームをまとめるタイプでもありません。自分ではキャプテンとして上手くできているのかなと思いますけど、キャプテンとしての責任とか自覚は受け止めています。監督やチームメートからキャプテンに任命されるのは信頼されているからだと思いますし、資質とか自分の行動を見てもらってのことなのかもしれませんね。試合に勝つための雰囲気作りとチームメートへの声掛けは大切にしています」
「あまり肩書きとかは意識したことないんですが」という渡邉も「キャプテンは重いっすよ」と本音を漏らす。
「やはり周りが見る目が変わってくるし、キャプテンとしてきちんとしないといけないと気持ちも引き締められます」